審査レポート - 「企業プレゼンテーション」部門 グランプリ

クエストカップ2014「企業プレゼンテーション」部門
グランプリの審査の対象となったのは以下の6つのチームだ。

・クレディセゾン賞 新潟県立国際情報高等学校 「SAISON」チーム
・スカパーJSAT賞 桜丘高等学校 「Pizza-Sat」チーム 
・ソフトバンクグループ賞 千葉明徳高等学校 「I =bank」チーム 
・大和ハウス賞 長野県上田千曲高等学校 「安全地帯」チーム
・テーブルマーク賞 賢明学院高等学校 「DEBLU MARK」チーム 
・日本コカ・コーラ賞 東京都市大学付属高等学校 「チームM」 

この中で、見事今年度のグランプリに輝いたのは、スカパーJSATに「降り注ぐ宇宙太陽光発電エネルギー」を提案した愛知県豊橋市の桜丘高等学校「Pizza-Sat」チームだ。

宇宙太陽光発電という提案自体は、他にもいくつかの学校で見られたが、人工衛星で発電した電気を、変電所を経由して配電するのではなく、 広く地球に降り注がせ、それぞれの端末で直接受け取り利用するという発想は、このチームが唯一だった。

電気が「降り注ぐ時代」になると、
① スマホやモバイルPCの電源切れを心配することがなく、さまざまな電気機器の携帯化が促進すること、
② 停電がなくなるので災害時でも安心なこと、
③ 電気自動車がいくらでも充電なしで走れるようになること
などが実現し、これにより、化石燃料の奪い合いもなくなると明るい未来を描いて見せた。

そして、実現のために越えるべき壁として
① 人体への影響 
② 変電機を内蔵した端末の開発
③ 料金システムの確立 
の3つを挙げて、パイオニア精神を大切にする スカパーJSATであれば乗り越えられないはずがないと迫った。

そのあまりにも大胆な発想、スケールの大きさ、適確な課題検証の視点、世界観が高く評価された。

アニメやキャラクターを上手に使ったエンタテインメント性溢れるプレゼンテーションも会場を沸かせたが、本質的に評価されたポイントは、苛酷な競争や奪い合いを前提とする 現代のマネー経済を越えた、近未来の経済システムに向けられた彼らの純粋な眼差しである。

準グランプリに輝いたのは、大和ハウスに提案した長野県上田千曲高等学校の「安全地帯」チームだ。

現代社会は、時間がない、心の余裕がない。だから夢がもてない、と看破し、先端技術を駆使してそれらを解消し「だれもが夢に挑戦できる社会を実現する」という意欲的作品。

「インフィニティ・ビュー」という端末を装着することで人の五感や記憶を記録したり、他の人と共有することが出来るというもの。
過去に食べておいしかったケーキの味を思い出したり、自分の内側にある潜在的興味に気がついたり、病気の時の痛みを医師にダイレクトに伝えることが出来たりと、寸劇を交えた解説はとてもわかりやすい。

圧巻なのは後半である。
さまざまな新規事業に取り組む大和ハウスだが、自分たちで行った調査を元に、多くの人がそのことを知らないと指摘した。
「共創共生」を理念に掲げる大和ハウスだからこそ「インフィニティ・ビュー」を商品化して、すべての人が夢に挑み、お互いの幸せを願えるような社会を実現するべきだと説いた。

大和ハウスの企業理念を踏まえた視点の高い提案は審査委員の感動を呼び高い評価を得た。
描かれた世界の姿はすばらしく、最後までグランプリを争ったが、提案した商品が実際に社会に与えるだろうと思われるインパクトのリアリティにおいて明暗を分けた。

惜しくも、受賞は逃したものの同様に高い評価を得たのがテーブルマークに提案した大阪の賢明学院高等学校の「DEBLU MARK」チームだ。

食料自給率の問題や賞味期限を守るために返品され、破棄される400万トンの廃棄食糧の問題を丁寧な調査に基づいて指摘する社会派の提案。

ロスになった食材をフリーズドライにして缶詰にし、自販機で販売したり、海外に輸出したりという提案は、1本筋の通ったもので、高く評価できるものであった。

「食べたいときに食べられる」ことが「真の旨さ」であり、「あたりまえなのにありがたい」ことがテーブルマークらしさであるとプレゼンを締めくくった。

社会課題の解決という視点から見ればとても高く評価できる提案であったが、本当にその商品が売れるのか、また、この企画で「主食の地位向上」が起こるのかとミッションに照らし合わせて考えたとき、 前の2チームに道を譲ることとなった。

日本コカ・コーラ賞を受賞した東京都市大学付属高等学校
「チームM」はその企画性が評価された。

飲料を、飲む楽しさだけでなく、買う楽しさも!
という提案で、自分が買った自販機の位置を地図上でつなぎ、地上絵を描くというもの。98万台の自販機を保有するコカ・コーラならではの企画で、 自分たちも渋谷駅周辺を歩いて自販機を巡り、星形の地上絵を描いて見せた。

成功して得られる賞品は、缶飲料1本と地味であるがすぐに得られるのでユーザーは達成感があり、その場からSNSでシェアされることで、一気にキャンペーンの拡大が見込めるというしたたかな戦略性もあった。

アイディアの種としては非常におもしろいがやや展開性に乏しく、プレゼンの中で繰り返しとなる フレーズが多いという印象を審査委員は持った。
決められた絵をただなぞるだけではなく、自分たちで好きな絵を自由に描き、その絵をコンペしたり、 日本だけではなくて世界を舞台に地上絵を描いたりというダイナミックな展開があれば、コカ・コーラらしい世界観が表現できたのではないかという意見が出た。

クレディセゾン賞を受賞したのは、
今年初出場の新潟県立国際情報高等学校「SAISON」チームだ。

セカンドステージのトップバッターであったにも関わらず、緊張感を感じさせない凛としたプレゼンテーションを大舞台で繰り広げた。

アジアの現状について丁寧に調べており、690万人の難民がいること 学校に行けないで働いている子どもたちの現状、15億人以上が貧困層であり、彼らが1日に使えるお金は200円しかないという厳しい事実を指摘。
「一人ひとりみんながやりがいを持ってやりたいことを出来る」アジアを目指すとした。

国境を越えて、それぞれの人が自らの能力を発揮して働くことができるWEBサービス「仕事循環システム」を提案。
アパレル、農業、教育事業とさまざまなケースで仕事を創っていくプロセスをわかりやすく、寸劇で表現してくれた。

若者、アジア、クレディセゾン、3者ぞれぞれの利益が考えられていることも企画の説得力を増したがグランプリを目指すには、アイディアにもう一歩の斬新さが欲しいところだった。

ソフトバンクグループ賞を受賞した千葉明徳高等学校「I =bank」チームの発表は、調査、企画、表現など総合的にバランスのよいものだった

内発的動機付け、外発的動機付けについて調べミッションにある「魂に火がつく」とはどういうことか自分たちなりに定義した。

彼らが考えた未来の学校の企画名は、「GPMP」。
Goal(目標)、Pleasant(楽しませる)、Motivated(動機を与える)Project(プロジェクト)の頭文字をとったもので、具体的にどのような学校か、自分たちが演じることで表現した。

ICTに連動したメガネやマスク、手袋やブーツを装着することで五感を刺激するバーチャルな学習体験を提供し、 モニターがついた机やネットワークにつながったノートなどの学習環境が整備された学校だ。

進路選択するにあたって、将来を決められない生徒は多い。
たくさんの職業に触れることで目標を定めやすくなる。
もっと生き生きと学ぶ生徒が増えるはずだと締めくくった。

細部までよく考えられていてまとまりもよく自分たちの提案に対する熱意も十分に伝わるものだったが、 審査委員の中からは、アイディアにもう一歩のブレイクスルーが欲しかったという意見も聞かれた。

今年の企業プレゼンテーション部門セカンドステージに残った作品はどれも完成度が高く、プレゼンテーション技術の向上、調査力、論理性の高まりが感じられた。
しかし、よくまとまっている分、ダイナミックなスケール感を感じさせてくれる作品がやや少なく、ミッションの背景にあるものごとの本質を雄々しく探究する力の一層の向上が期待される。

いつの時代も子どもたちは大人の鏡である。
もし審査委員が感じたことに理由があるのならばそれははからずしも、私たち大人が変化を恐れ予定調和に陥り、小さくまとまろうとしていることの証左では無いだろうか。

クエストの取り組みは、企業と子どもたちが、未来で待ち合わせをするためのものだと思っている。

子どもたちも一年を掛けて伸びやかに成長を遂げ、大人たちも、力の限り飛躍した先で彼らの提案を受け取る。
そうして社会全体がさらなる高見へと昇っていくことを目指している。

また新たな一年がはじまる。
主催者としても、もう一度、原点に戻って考えたい。

「企業プレゼンテーション」部門 セカンドステージ審査委員
宮地 勘司

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主催:クエストカップ実行委員会 / 教育と探求社

協賛:クレディセゾン / スカパーJSAT / ソフトバンクグループ / 大和ハウス工業 / テーブルマーク / 日本コカ・コーラ

協力:一橋大学イノベーション研究センター / 法政大学キャリアデザイン学部

問い合わせ:教育と探求社 E-mail: