今年は、未来編4編、過去編4編が全国大会へ出場した。
全体の傾向としては、真面目に真摯に取り組んだことがうかがえる作品が多かった。特に、どの作品も構成力、
文章力が平均点以上のしっかりした内容であった。
その反面、授業という枠からはみでるような、パワーを感じさせるものは少なかった。
そういう意味で、当日の発表と講評の場面での、審査委員との深いやりとりは、単なる審査を超えた深い学びになったのではないかと思う。
審査委員のひとり、詩人の覚和歌子さんからは、特に、ことばについての質問やアドバイスあった。
それは、生徒のみなさんにとっては、本当に深い学びになったものと思う。
8人の発表者がただ自分史を読んで終わりでなく、この日、次への課題を持って帰れたことがよかった。
ここからが、新たな成長の始まりとなったことが本当によかったと思っている。
グランプリの「土橋知菜美さん」の作品は、自分に起きた事実を単に事実としてだけを伝えるのではなく、きちんと感情まで書き込んだところ、その感情をまっすぐに素直に、土橋さん自身のことばで伝えたことが大きく評価された。
発表も、背伸びすることなく、今のままの土橋さんの人となりが伝わるもので、とても好感がもてた。
準グランプリの「江文和順さん」の作品は、抜きんでた文章力、構成力に対する評価が高かった。
ただ、あまりに巧みすぎるゆえに、知的な早熟さが感じられ、そのことばが自分のからだの内側からでてきたものか。江文さんの人間そのものが十分に伝わっているか。
ストレートに心に響いてくるかどうか、というところが審査委員の中でも熱い議論となった。
ただ、ひとつの作品として練り上げる過程の探求力は、中学生とは思えないくらいの深さがあり、そこを大きく評価した。
早熟であることも個性。彼がこの課題にどう向き合ったか、そのことを承認したいという気持ちがすべての審査委員にあった。
そのほかの作品も、等身大の自分を無理なく表現したもの、過去をしっかりふりかえったもの、社会に対する不安、将来に対する不安をまっすぐに見つめたものなど、とても素晴らしいものだった。
そして、まだまだのびしろはたっぷりある、というのが、私たち審査委員の共通した感想だった。
ここをこう踏み込んでみたら? そんなのびしろの部分は、それぞれの発表後の講評で、あるいは、終了後の「ステップ25」でみなさんにお伝えした。
審査委員もまた、一人の人間として発表してくれる生徒のみなさんと、きちんと向き合ったと思う。
たくさんの可能性に出会い、自分自身が非常に深い影響を受けた時間であった。
ことばは未来をつくる。
自分史は、過去編と未来編に分かれているけれど、実は、どっちに重点があるか、というだけで、過去から未来へとつなぐものを書いているのだと思う。
小さいとき大好きだったことが未来に花開く。
だから、過去を書いてもその先の道が見えているし、未来を書いても、過去に蒔かれた種がそこにはある、そんなふうに、この課題をとらえていただければいいなあと思う。
課題だからやらなくちゃとか、先生に提出しなきゃいけないから、そういう動機でなく、ぜひ、この課題に主体的に取り組んでほしい、心からそう思う。
一見、とても地味かも知れないけれど、これほど、自分を成長させてくれ、人生を変える活動はなかなかないのではと思う。 みんなが成長し、変容するだけではない。日本や世界の未来が、この活動から生まれていくのだと思っている。
イメージが未来をつくる。
ことばが未来をつくる。
「自分史」部門 審査委員
旭 亨子