クエストカップ2012 大会の様子
「企業プレゼンテーション」部門 グランプリ

当日の審査を振り返って

今年の「企業プレゼンテーション」部門は、全体として
明らかにひとつ、進化の階段を昇ったことを感じさせるものだった。
企画の視点、パワーポイントの表現手法、そしてそれを伝える
話し手としての能力、どの点においても洗練と力強さを増していた。
「プレゼンネイティブ」と呼べる世代の登場だ。

並み居る秀作の中、見事今年度のグランプリを受賞したのは、
渋谷教育学園渋谷中学校の「桃太郎」チーム。日本経済新聞への提案だ。
現状の日経電子版の課題を鋭く分析、指摘。400人を越えるアンケート
調査の結果からそれを導き出しているところに説得力があった。
彼らが考える「10年後の日経電子版」は、マクロ経済と個人の生活や
購買行動がどのようにリンクしているのかということを
リアルタイムで知ることができるサービス。
今後のスマートフォンの拡大やソーシャルメディアの普及を踏まえており、
ITが人類に何をもたらすのか、という根源的な視点を含んだ本質的な
提案が中学生から出されたことに、審査委員一同、驚きをもって受け止めた。
企画の詳細な実現性やプレゼンテーション力は他チームに譲る点があるものの、
着眼の深さと、そこを自力で考え抜いた点が評価の対象となった。

クレディセゾンに提案した実践女子学園高等学校の「KAP family」は、
ダイナミックなスライドの表現とアップテンポの話し口で、
制限時間の中に実にたくさんの情報量を盛り込んだ、密度の高い
プレゼンテーションだった。そしてその内容も、「ベビちゃんカード」
とネーミングされた新生児向けのカード発行ビジネスで
従来の常識を打ち破るものだった。子どもにカードを持たせるという
アイディアは、一見だれもが思いつきそうなものであるが、
同時に社会的な抵抗も予想される。そこに真っ向から挑んだ意欲作だ。
具体化するための様々な仕組みや工夫、データやイメージも
盛り込まれており、非常に説得力のある提案だった。

テーブルマークに提案をした常翔学園高等学校の「F.frozen」チームも
元気一杯の小気味いいプレゼンと、実際に自分たちで作成したCMが
大きな注目を集めた。800枚の写真をつなぎ合わせたスライドアニメは
圧巻だ。しかしながら、「日本の未来をここからつくる」という
大会テーマを踏まえた視点がもう少し欲しかった。

日本の政治改革に真っ向から挑んだ同じく常翔学園高等学校
「スカパー常翔」チームも意欲的なプレゼンだった。
「スカパレス」という新サービスを開発して、高校生が政治に参画する
という提案。高齢化や年金問題、原発問題など、現状の社会の課題の
根本的解決には政治の力が必要。「日本の未来」について考え抜いた
末に、政治に手つかずのままではこれ以上先に進めないという、
10代が持つシンプルな危機感がひしひしと伝わってきた。
彼らには是非、今後何らかのかたちで自分たちの思いを実現していって欲しい。

大和ハウスに提案した常翔学園高等学校の「THE BEST HOUCHU」
チームは、「Earth in Earth」をキャッチフレーズに、
地球の中にもう一つの地球をつくろうという提案だ。
具体的には、りんくうタウンそばに世界中の文化や物産が集まった
まちをつくり、そこに実際に世界中の人々が住み、交流をするというもの。
「日本の未来」「100年続くまち」を考え抜くと「世界の未来」
「地球の未来」につながっていくところがおもしろい。
また、プレゼンテーション冒頭の「あなたに夢はありますか?」
という問いかけから、大和ハウスの創業者石橋信夫氏が掲げた
企業理念につなげるフレーズは聴衆の注目を集めた。

森永製菓賞を受賞したのは、今年初出場の鴎友学園女子高等学校、
「森 Na girls」。「キラめきをもたらすキャンペーン」として、
10代が最も関心がある恋愛をテーマに企画を考えた。
キョロちゃんの目をハートにしてしまう「賞品の恋仕様化」や、
消費者の恋愛エピソードを募集してつくるCM企画などを
盛り込んだ「日本バラ色計画」を提案。
低コストのキャンペーンで売上の増加が図れること、
恋愛し、結婚する人が増えることによる少子化対策、
またその子どもたちが森永ファンになることなど、
裏付けにはやや乏しいものの、大きな視点から長期的な戦略が
考えられていたことは評価できる。消費者参加型のCM企画として
実際に彼女たちが制作したCMサンプルは、
テーマがダイレクトに伝わるもので会場は大いに盛り上がった。

今年度は、企業賞6点の内、3点を常翔学園が独占するという結果となった。
ここ数年の常翔学園の成長ぶりが著しい。その他、上位に入賞する学校に
共通する特徴は、「おおらかで自律的な校風」であると感じている。
グランプリを受賞した渋谷教育学園渋谷中学の校是は「自調自考」だ。

「寛容性」が創造的人材を集め、その能力を活かすために
必須の要素であることは、「クリエイティブ・クラスの世紀」を著した
アメリカの社会学者リチャード・フロリダも語るとおりだ。
本格的な市民社会の到来を目前に控え、中高生の創造性と自律性を
涵養することは、彼らの学力を伸ばすことに勝るとも劣らぬ程
重要な日本の課題だ。「日本の未来をここからつくる」ためには、
若い世代の人々が、物事を本質的に捉え、前提にとらわれることなく
自由に発想し、それを具体的に試していく、
そんな骨太の取り組みができる機会をつくる事が大事だ。
私たち大人の世代にできることは、とにかくそのような場をつくり、
彼らを信じて見守ることだと思う。今後の彼らの活躍に大いに期待したい。