当日の審査を振り返って
今回のクエストカップで最も審査が難航したのが、
「自分史」部門だった。それぞれの作品に良いところがあり、
また同時にさらに深堀をして欲しいところもあり、
審査委員の意見は大いに割れた。
グランプリを受賞したのは、三重県立名張高等学校の淺川美樹(あさかわみき)さん。
高校3年生の彼女は、当初希望していたお菓子作りの専門学校への進学をあきらめ、
就職を選択するが、将来、大好きな母親と一緒にお菓子のお店をひらくという夢は
これからもあきらめずに持ち続けたいという未来の履歴書。
ケーキ作りが本当に好きでたまらないことや母親を慕う気持が、
素直な言葉の一つひとつから伝わってきた。
しかしその一方で、進学をあきらめたことやそこに至る経緯の中での
自身の心の葛藤などについて、どのようにとらえて昇華しているのか、
作品からは読み取れず、審査委員の評価は分かれた。
滝川第二中学校の柴田瑚子(しばたここ)さんと
長野県上田千曲高等学校の宮下空(みやしたそら)君の作品は
トーンやスタイルは全く異なるものだが、人見知りで内向的だった自分が
ある出来事をきっかけに殻を打ち破り、大きく変わっていくというストーリーは
重なる部分が多かった。
児美川審査委員(法政大学教授)の当日の講評では、
自分史を書くという行為は自己の意識変容を促す教育的効果があり、
その点において、この二人の生徒が自らの経験から何を学び、
どのように自己改革を遂げて今ここにいるのか、
そのこと自体が評価の対象となり得る、と語られた。
作品として際だったのは常翔啓光学園中学の児島尭希(こじまたかき)君の未来の履歴書。
将来防衛大学に進学し、海軍に配属になり、国を守る為に闘う様を想像で
描ききったものだ。描写は克明で、かつ気迫の籠った文体は
非常に引き込まれるものがあったが、発表後の質疑のなかで、書いたものは
あくまでもフィクションであり実際の自分のビジョンとは重ならないとのコメントがあり、
審査委員の評価が分かれる結果となった。
自分史部門は、表現物として評価すると同時に、まさに自己探求した、その結果としての
生徒のあり方をそのまま評価する側面もあり、審査は極めてむずかしい。
今回審査に当たった各委員は、どの作品を選ぶかということ以上に、
講評を通して生徒たちに何を伝えていくべきかということを入念に検討した。
講評を通して伝えられたメッセージを今後の人生の糧として欲しい。