大会の様子 - 『私の履歴書』コース:「人物ドキュメンタリー」部門

【審査講評】

「人物ドキュメンタリー」部門に今年選出された作品は5つ。
いずれも表現力豊かでバリエーションに富んでいて、観る人を楽しませてくれた。
審査委員の意見は大きく割れたが、最終的にグランプリに選出されたのは、
埼玉県立伊奈学園中学校の「未来に化ける新素材」チーム。
水木しげるの人生を楽しく、豊かに表現してくれた。

同チームの発表で、まず審査委員の目を奪ったのは、
黒板にチョークで描かれたアニメーションだ。
コマ撮りで撮影された直筆の絵はほのぼのとして味わい深い。
音楽とも相まって独特の世界観を生み出した。
彼らの作品の特徴は、水木しげるの人生の中でも自分たちが
大事だと思う部分に大胆にスポットを当てたこと。
寸劇を中心に楽しく分かりやすく構成してくれた。
なぜそのエピソードを取り上げるのか、それが水木しげるの人生で
どのような意味を持つのか、もう一歩の深掘りを期待する声は
審査委員からも聞かれたが、最後の「水木さんのルール」に載せた
自由と創造性についてのシンプルなメッセージに、一同胸を打たれた。

健闘したのは、育英西中学校の「O GeeeeeN」。
小倉昌男の人生を、軽妙な音楽とおしゃれなイラストに載せて伝えてくれた。
まずは、スタジオジブリの作品「魔女の宅急便」とヤマト運輸の
連携のエピソードから入り、映像の力で聴衆をひきつける。
次いで、小倉昌男が奥さんと出会い、結婚するまでのストーリーを中心に、
スワンベーカリーという障がい者がつくるパン屋さんの話しを盛り込むなど、
全編、女性らしい視点で構成されていた。
圧巻だったのは、プレゼンの最後に、女性の社会進出をもっと促進するべきだ
という自分たちのオリジナルのメッセージをダンスに載せて訴えたこと。
社会改革の意識が強い小倉氏がご存命なら、
必ずや大きく頷いていただけた事と思う。

長野県上田千曲高校の「すらいすれもん」は、タイムマシンに乗って
過去にタイムスリップし、森英恵の人生の足跡をたどった。
最初のブティックの出店から海外進出、蝶をモチーフとしたデザインで
次々に成功を治めていくライフストーリーを丁寧に伝えた。
主役の森英恵を演じたのはなんと!男子生徒。
存在感のある熱演に会場が注目した。
途中台詞を忘れるなどのアクシデントもあったが、
それを差し引いても余りあるパフォーマンスは審査委員の高い評価を得た。

松前重義の波瀾万丈の人生にチャレンジしたのは、
滝川第二中学校の「まっちゃん同好会」だ。
通信技術、放送、教育、柔道、キリスト教、政治と様々な分野の
第一線で活躍し、大きな成果を出した松前重義の人生を、
中学二年生ながら、同校らしいの歯切れのいい演技で表現しきった。
複雑で難しい松前の人生を敢えて選んだ彼らの勇気を称えて
入賞に押す声もあったが、もう一歩踏み込んだ読み解きと
そこから出てくる強いメッセージを期待する声もあった。

常翔啓光学園中学校の「B2」は、田辺聖子を取り上げて
楽しい作品に仕上げてくれた。
メインの進行役の生徒は、大きな身振り手振りを交えながら
ステージ上を練り歩き、表情豊かに会場に語りかけた。
自分たちの写真や手書きのイラストを盛り込んだスライドに加えて、
寸劇やムービーなどのさまざまなアイテムを駆使したプレゼンテーションは
チームワークも光り、観る人を飽きさせなかった。

今年の作品は、いずれも個性的で、自分たちのチームの強みを活かした
プレゼンテーション力の高いものが多かった。
単にライフストーリーを時系列で追っただけではない、
オリジナリティ豊かな構成も光った。
しかし、同時に、取り上げた人物が、なぜそのような人生の選択や行動、
生き方をしたのか、さらなる探求の余地を残す結果となったようにも思う。
その点については、今後の伸びしろとして深めていってもらいたい。

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