「人物ドキュメンタリー」部門 審査講評

今年は過去最高数の10チームを迎えての審査となった。総発表時間も大幅に伸びたが、そのことを全く感じさせないようなぎっちりと身の詰まった作品が多く見受けられた。

グランプリに輝いたのは、埼玉県立伊奈学園中学校のチーム「高嶺の花」。小倉昌男の人生を深く、濃く、ダイナミックに演じた。宅急便事業に乗り出すことを決意するが従業員の反対に合い、何度も挫折しそうになる小倉昌男。迷い、戸惑い、悩みながらも、最後は信念を貫いた小倉氏の生き方、経営者としての在り方を見事に描ききった。余分なものをすべて省いた大胆な構成、十分に練られた脚本、キャスティングの妙と迫真の演技力。どの点をとっても最高レベルの評価。脚本家のさらだ氏も、プロ顔負けの作品と絶賛した。動画による事前審査の段階と比べても飛躍的に洗練されていたことも評価の対象となり、審査委員全員一致でのグランプリ受賞となった。

準グランプリを争ったのは、同じ大賀典雄を取り上げた二つのチーム。賢明学院高等学校の「It’saZONY」と育英西中学校の「ruuua」だ。
「It’saZONY」はカラヤンの死という壮絶な場面から始まり、その後の大賀の人生を、音楽を軸に辿った。最後のまとめで、大賀さんが取り組んだ情報化、グローバル化というテーマは今日なお重要なものであり、自分たちがまさに取り組んでいかなければならないことだと主張した。人物を自分事として捉えた証であり、その視点の深さに会場は共感した。
一方、「ruuua」は、死後の大賀典雄が守護天使に導かれ、軽快な関西弁で生前の記憶を辿るという構成だ。ユーモアとスピード感があり、見る人たちをぐんぐん引き込んでいく力があった。小道具のギターのストラップが切れるというトラブルがあったにもかかわらず、躊躇することなく演技を続けた点も素晴らしかった。
審査委員は、どちらの作品を選出するかで大いに割れたが、「ruuua」の構成力と表現力に軍配が上がった。見る側に考えさせる余白を残したエンディングも評価された。

その他、村上信夫の人生に取り組んだ伊奈学園中学校「信夫さん親衛隊」、樋口武雄さんに取り組んだ常翔啓光学園「RASY」も高い評価を得た。いずれも、よく練られたストーリーを紡ぎ出していたと同時に、十分に練習を積み重ねてきたことがうかがえる演技の質の高さが評価された。

他の作品も含めて、今年は本当に力のある作品が多かったように思う。単に時系列で人生の出来事をなぞるのではなく、先人の人生における転機や出来事の意義を探求し、その人が本当に大切に考えていた価値観を必死で掴もうとする中学生や高校生の姿勢に共感が持てた。戦後70年が過ぎようとしている。昭和、平成を生き抜いた一人の人間の人生に深く向き合うことで、そこから見えてくる時代の流れがある。そこから彼らは、一体何を感じたのだろうか。あらためて彼らに話を聞いてみたいと思った。

(審査委員 宮地勘司)

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