「企業プレゼンテーション」部門 審査講評

今年の「企業プレゼンテーション」部門の審査は例年以上に難航した。多彩なミッションに取り組む生徒たちの探求も多様性に富んだもので、出そろった6つの作品はどれも見事な出来映えであった。

混戦を制したのは、今年初出場の聖学院中学校のチーム「UDON」。テーブルマークのミッションに取り組み「20年後の食のシーン」を見事に描いてみせた。評価されたポイントは、地球規模の「現代の食の危機」に真っ向から向き合い、それを乗り越えるために社会貢献的視点と、経営的視点が融合したソリューションを提示したことだ。まずはキャンペーンにより得た売り上げの一部を使い、アフリカで給食としてうどんを提供する。この活動を通じて、アフリカの地にうどんのファンを大量に生み出す。そして、うどんで育った子供たちが成長し大人になった時、現地に工場を作り自らの手によるうどんの生産をはじめるというプラン。国内の安売り競争に消耗する「レッドオーシャン戦略」ではなく、これからの10年20年を見据えて、自社の強い商品で貧困や飢餓などの社会問題に取り組みながら雇用を生み出し、市場を創造していこうという「ブルーオーシャン戦略」は、シンプルでありながら、企業そのものの在り方を問いかける骨太の提案になっている。地味で無骨なプレゼンテーションではあったが、「私たちはアフリカの子供たちの食料を奪っているのではないか。できることはすぐにはじめよう!」というメッセージは審査委員の胸に刺さった。

準グランプリに選ばれたのは、スカパーJSATに提案した育英西高等学校のチーム「Oh-Buuuuurns!!!」。動物が持つ、地震などの自然災害の予知能力を活用し、災害速報ビジネスを立ち上げるという提案。スケールの大きな着想、様々な裏付け資料を集めた調査力、スライドの美しさやプレゼンの上手さなど、どの点をとっても申し分のない、高いレベルの作品であることは審査委員の意見も一致した。グランプリに及ばなかったのは、唯一、動物に情報発信のための器具をつけるという点だ。動物の潜在能力に対して尊厳を持って捉えていたチームだからこそ、動物たちの生態系に直接介入することなく、動物の知恵を人間が使わせていただくという共生的なやり方に期待した。

残念ながら選に漏れたものの、上記2作品に劣らず高い評価を得たのは渋谷教育学園渋谷中学校のチーム「素人の発想」。H.I.S.のインターンとして、オタクの聖地巡礼ツアーを提案。大いに会場を沸かせた。斬新な発想、引き込まれる論理展開、考え抜かれたディテール、魅せるプレゼン、どれをとっても申し分ない。中学生とは思えない完成度の高さだったが、審査において議論となったのは、画期的な提案ではあるものの、社会的、公益的価値はどうなのかという点だ。草食系男子を世界に送ることで彼らがグローバル視点を持った力強い日本男児として成長するという価値に言及する審査委員もいたが、実際のプレゼンの中ではそのことにあまり触れられておらず、極めて秀逸な「商品企画」の域を超えないのではとの意見も出た。
以上3作品は、どれがグランプリに選出されても遜色のないレベルであった。審査委員会として今回このような結果を出したのは、持続可能な社会をつくるために本当に何をするべきか、企業も原点に立ち返り考えていくべき時代であるという審査委員会からのメッセージだと捉えて欲しい。

その他の3チームにも触れておきたい。
激戦を勝ち抜きオムロン賞に輝いたクラーク記念国際高等学校大阪梅田キャンパスの「機械龍」は、町中にある防犯カメラを活用し急病人を救うという「救急カメラ」の提案。すでに整備されているインフラを活用して、新たに実現可能で社会的にも有用なサービスとする企画は、年間数百の新商品、新サービスに取り組むオムロンの技術者たちも斬新な企画と高く評価した。グランプリ審査においては、革新性や未来をつくる、という視点において受賞作品に一歩譲る結果となった。

クレディセゾン賞を受賞したのは初出場の花園高校の「もりちゃなよ」。Sonyの技術とコラボして、睡眠中に夢の中で商品を体験しショッピングを楽しむというもの。忙しさに追われる現代人の生活時間の1/3を占める睡眠の時間を有効活用できる。画期的で流れる論理に引き込まれる提案ではあるものの、寸暇を惜しんで消費する、という世界観に違和感を唱える審査委員もいた。

大和ハウス賞に選出されたのは、下北沢成徳高校の「世界の大輪ハウス」。本人たちは全く予想もしていなかったようで、受賞の際は大きな歓声と共に涙にくれた。「防災」ではなくて「減災」というミッションの意図をしっかりと捉え、いざというときに身を守り、安全な場所へと自動で移動してくれるカプセルカーを提案した。メンバーの気迫やチームワークにも見るものがあったが、カプセルカーの活用法や技術的裏付けなどにもう一歩の探求があればさらに説得力が増したのではないかという意見が出た。

今回ほど、審査が難しい審査会もなかった。時が異なり、審査委員のメンバーが異なれば、審査結果は違っていたかもしれない。審査基準や項目で言えば、どのチームも満点に近い。故に、審査委員会として何を選ぶのか、という主体的な判断が必要となる。その意味で今年は「持続可能な社会に向けての本質的な取り組みであるか」という視点での選出となった。なぜなら、今日の企業が決して避けることの出来ない視点だと考えられるからだ。「中高生と企業が共に未来をつくる」クエストエデュケーション。子供たちと共に、大人も進化、成長していきたい。

(審査委員:宮地勘司)

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